パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ: 二〇世紀史概説』

 <エクス・リブリス>シリーズの最新刊は、チェコの作家パトリク・オウジェドニークが、コラージュによって描く20世紀の歴史。
 フラバルをはじめとしてチェコの作家の作品には面白いものが多いですし、20世紀に激変を経験した東欧の作家による20世紀の歴史ということで期待して読みました。


 ですが、これはやや期待はずれ。
 第一次世界大戦第二次世界大戦共産主義、消費社会といった「いかにも」な題材をちょっとおもしろいエピソードでランダムにつないでいくだけの作品で、それらの出来事についてあまり知らない人にはそれなりに面白いものがあるかもしれませんが、これらのことについて書かれた本をある程度読んできた人にとっては、既視感のあるエピソードの羅列になってしまっています。
 

 そして残念なのは東欧文学っぽさがない所。
 個人的に東欧文学の魅力というのは、ナチズムやら社会主義による抑圧によって言いたいことをストレートに言えない状況で、人間としての生き様を屈折に屈折を重ねて語るというところにあると思うのですが(フラバルの『あまりに騒がしい孤独』なんてその典型)、この本にはそういう屈折はなく、けっこうあっけらかんと「ヨーロッパ」に立脚している。
 だから、例えばこの作品がフランス人によって書かれたものだとしても全然違和感はないです。
 実際、著者は1984年に27歳でフランスに渡り、現在もパリに住んでいるとのこと。チェコ語で書いているとはいえ、「ヨーロッパ」的な世界の住人なのでしょう。
 

 ただ、140ページほどと短い作品なので、本屋で冒頭の数ページを読んでみて「面白い」と思えた人は読んでみるといいと思いますし、逆に、やや既視感を感じた人はそのままスルーしてもいいと思います。


エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)
パトリク オウジェドニーク 阿部 賢一
4560090351