バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣』

服は人なり、という衣装哲学を具現したカエアン製の衣装は、敵対しているザイオード人らをも魅了し、高額で闇取引されていた。衣装を満載したカエアンの宇宙船が難破したという情報をつかんだザイオードの密貿易業者の一団は衣装奪取に向かう。しかし、彼らが回収した衣装には、想像を超える能力を秘めたスーツが含まれていた……後世のクリエイターに多くの影響を遺した英SF界の奇才による傑作の新訳版。星雲賞受賞作。解説/中島かずき

 

 イギリス生まれで奇想天外なアイディアのSFを世に送り出したバリントン・J・ベイリーの『カエアンの聖衣』が、大森望訳で復刊。
 僕はあまり知らないのですが、アニメの脚本家でこの本の解説を書いている中島かずきがアニメ『キルラキル』の元ネタとしてこの本をあげていたことが復刊の一つの理由になっているみたいです。


 この本の一番のアイディアは冒頭の紹介でも触れられているように衣装になります。
 良い衣装は、ときに人を積極的にさせたり、自信を持たせることがあります。これは本人の持つ心理的なものですが、カエアンのフラショナール・スーツと呼ばれる特別なスーツには、自分だけでなく他人の心理にまで影響をあたえることの出来る力があります。
 そのスーツが巻き起こす騒動と、そのスーツの来歴と謎をおうというのがこのSF小説の基本的なストーリーとなりますが、それ以外にも色々なアイディアが満載となっています。


 序盤はフラショナール・スーツを手に入れるペデルという男の話しと、カエアンの文化の謎を探るアマラという女性の文化人類学者の話が交互に進んでいくのですが、アマラのパートがかなり奇妙奇天烈です。
 宇宙の果てで日露戦争の延長線のようなものが行われていますし、ロシア人から進化したのではないかと考えられる生命体は、ほとんど機械と一体化しており、その機械部分を含めて自己の身体だと認識しています。
 衣装に異常にこだわるカエアン人もそうですが、この本では人間とは違った自己認識や知能を持つものを想像しようとしています。


 もっとも、小説としてはそれほど哲学的な高級感はなく、そのアイディアはあくまでもエンタメの中で使われています。
 それでいながら、それなりにきちんと伏線を回収して終わらせているというところがこの小説のよくできたところなのかもしれません。
 

カエアンの聖衣〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
バリントン・J・ベイリー 大森 望
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