『お嬢さん』

 『オールド・ボーイ』や『親切なクムジャさん』のパク・チャヌク監督の作品。サラ・ウォーターズの小説『荊の城』を原案にし、舞台をヴィクトリア朝のイギリスから日本統治下の朝鮮に移したサスペンスになります。
 まずはYahoo!映画に載っているあらすじは以下の通り。

日本の統治下にあった1930年代の韓国。詐欺師たちの集団の手で育てられた少女スッキ(キム・テリ)は、伯爵の呼び名を持つ詐欺師(ハ・ジョンウ)から美しい富豪令嬢・秀子(キム・ミニ)のメイドという仕事をあてがわれる。スラム街から彼女とそのおじが暮らす豪邸に移ったスッキだが、伯爵は彼女の助けを得て秀子との財産目当ての結婚をしようと企んでいた。結婚した後に秀子を精神病院に送り込んで財産を奪う計画を進める伯爵だが……。


 事前にある意味で「フェミニズム的な映画」と聞いていたので、日本統治下の朝鮮に建つイギリスの洋館と和風の屋敷をミックスしたおどろおどろしい雰囲気の舞台にいかにもパク・チャヌクらしさを感じつつも、どこかしら『キャロル』のような映画を想像していました。 
 実際、身分を超えた同性愛、男尊女卑の因習と戦う女性といった部分は『キャロル』に通じる部分があります。
 日韓併合のドサクサのなかで財をなし、日本人と結婚して日本人のように振る舞う秀子の叔父がつくり上げるキッチュな日本的エログロ世界と『キャロル』の描く50年代のアメリカは似ても似つかぬものですし、画のつくりなんかもぜんぜん違うものですが、テーマとしては似通ったものがあります。

 
 ところが、この映画は展開が速いのです。冒頭に「第一部」との字幕が出るので、後半に大きな展開があることは予想できるのですが、とにかく前半はするするっと話が進んでいきます。いくつか引っかかる部分はあるのですが、妖しい雰囲気にのまれながら、計画はどんどん進んでいきます。
 しかし、そこはパク・チャヌク。ここから話を鮮やかに折り返します。ここで観客はするするっと話が進んだわけを理解し、妖しい世界を再び体験することになるのです。


 この映画の特筆すべき所の一つは秀子を演じたキム・ミニの魅力。美人なのは当然なのですが、衣装や髪型でその雰囲気がガラッと変わってくきます。幽閉された病弱の令嬢からはじまって、その姿は映画を通して変化し続けます。
 また、パク・チャヌクの画面づくりも相変わらず面白く、映画の横長のスクリーンの中を平面的に活かした絵画的な画面は印象に残ります(うまく言えないですけど、ダヴィッドの《ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠》を思い起こさせる)。
 

 この映画はセリフの多くが日本語で、韓国人の俳優がやや聞き取りにくい日本語をしゃべります。また美しい画がある反面、安っぽいCGの部分もあり、そこがだめだという人もいるかもしれません。
 ただ、この映画に出てくる生粋な日本人は実は秀子くらいであり、秀子の叔父も伯爵と呼ばれる男も「偽物」の日本人だということを考えると、日本語が不自然なのは当然なのかもしれません。
 久々にパク・チャヌクらしいパワーを感じさせる作品で、すごいものを見せてもらったという気持ちになりました。


荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)
サラ・ウォーターズ 中村 有希
4488254039


荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)
サラ・ウォーターズ 中村 有希
4488254047