『KCIA 南山の部長たち』

 1979年10月26日に起きた韓国のパク・チョンヒ大統領暗殺事件を描いた映画。南山(ナムザン)の部長とは、韓国中央情報局(KCIA)のトップのことで、パク・チョンヒ大統領を暗殺したキム・ジェギュ部長が本作の主人公となりますが、本作では「フィクション」だということで名前はキム・ギュピョンに変更されています。

 本作で、このキム・ギュピョンを演じるのがイ・ビョンホン。「2枚目」のイメージが強かったですが、本作では受け身の演技で存在感を放っています。

 

 事件に関してはWikipediaでは次のように説明されています。朴正煕暗殺事件 - Wikipedia

 

大韓民国中央情報部(KCIA)部長・金載圭は朴大統領の古い友人だったが、「学生運動の弾圧が生ぬるい」としてしばしば叱責され、また、ライバル関係にあった車智澈大統領府警護室長から、金泳三の新民党総裁への就任阻止工作の責任を負わされライバル争いから脱落した。このため、一説では金載圭が両人に恨みを持ち、殺害を計画するようになったとも言われている。

 

 何だか怨恨説をとったときの本能寺の変のようですが、まさに本能寺の変を見るような面白さがあります。

 本作で描かれるキム・ギュピョンは、非常に常識的な人物で、民主派やアメリカの意向も汲まなければ政権は持たないと考えています。一方、パク・チョンヒ大統領はイエスマンに囲まれ、次第にそういったバランス感覚を失ってきています。

 同じ理想を掲げてクーデターを起こしたパク・チョンヒ大統領とキム・ギュピョンですが、その絆は失われつつあったのです。

 さらに大統領警護室長クァク・サンチョン(モデルとなっているのは第3代大統領警護室長チャ・ジチョル)に、大統領の面前で罵られたりと、恨み爆発があってもおかしくないようなシチュエーションです。

 

 ただし、本作ではKCIAの前部長であるパク・ヨンガク(モデルとなっているのはKCIA第4代部長キム・ヒョンウク)のアメリカでのパク・チョンヒ大統領に対する告発、さらにはアメリカとフランスを股にかけたスパイ・ゲームなどを描くことで、怨恨には還元されない形での暗殺事件を描こうとしています。

 そして、それはイ・ビョンホンの受け身の演技によってかなり成功しています。「麒麟がくる」の明智光秀もそうですが、裏切らなければならない過程が丁寧に描かれているのです。

 脚本的には、もう少しキム・ギュピョンとパク・ヨンガクという2人の部長の関係や因縁のようなものを描いたほうが良かったような気もしますが、全体を通して緊迫感をもたせることに成功しており、楽しめる映画になっています。