『ファースト・マン』

 『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルが再びライアン・ゴズリングとタッグを組んで、初めて月面に降り立ったニール・アームストロングのそこにいたる軌跡を描いた映画。

 宇宙飛行士を描いた映画というと『ライトスタッフ』が思い起こされますが、あの映画でも宇宙飛行士はさまざまなトラブルに見舞われ、大きなプレッシャーと戦っていましたが、それ以上に未知の領域へ挑む高揚感がありました。テーマ曲と相まって見ている方も高揚感を感じながら見ていたと思います。

 

 ところが、この『ファースト・マン』ではそうした高揚感がほぼ消え去っています。高揚感を感じるのはサターンロケットの打ち上げシーンくらいですかね。

 ニールは幼い娘を脳腫瘍で亡くすのですが、それが全編にわたってニールに取り憑いています。ニールは非常に冷静な男ですが、どこか心を閉ざしている部分もあって、それが妻のジャネットとの関係においても微妙な影を落としています。

 

 こうした中でニールはアポロ計画に参加し、ミッションをこなしていくわけですが、仲間の中には事故で死ぬものもいますし、ニール自信もロケットでトラブルに見舞われます。

 このトラブルがニールの孤独とも相まって観客に息苦しいほどの印象を与えるのですが、それがたぶんチャゼル監督の狙いなのでしょうね。ニールの内面の孤独と宇宙における孤独が観客をサンドイッチにする感じです。

 月面のシーンは美しいですし、もちろん有名な「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。」というセリフもありますが、そこに『ライトスタッフ』を見た時のような高揚感はないです。

 

 今のアメリカの状況と、デイミアン・チャゼルという個性によって切り取られた、今までにはなかったアポロ計画で、悪い映画ではないですけど好き嫌いはわかれるところでしょう。