一昨年に刊行されて面白かった『竜のグリオールに絵を描いた男』と同じく、全長1マイルにも及ぶ巨竜グリオールを舞台にした連作の続編。今作では「タボリンの鱗」と「スカル」の2篇を収録しており、どちらも中篇といっていいボリュームです。
グリオールは魔法使いによって長い眠りについているのですが、まだ死んではいません。そして、眠りながらも周囲に住む人々に大きな影響を与えているという設定で、そのグリオールに運命を翻弄される人びとの姿を描いています。
まず「タボリンの鱗」ですが、ジョージ・タボリンという貨幣学者がふとしたことで手に入れた竜の鱗によって娼婦のシルヴィアとともに、その不思議な力によってタイムスリップ(?)します。
そこにはまだ小さい若きグリオールが飛び回っていて人びとを追い立て、ジョージとシルヴィアにも原始的な生活を強制させます。前作では不思議な力によって人びとの運命が歪められていましたは、この「タボリンの鱗」では物理的な力で追い立てられています。
この作品はラスト近くのグリオールの復活劇が圧巻で、まさにクライマックスという感じです。そして、その後のエピローグ的部分で妙に舞台設定が現代世界に近づくので、「なぜ?」と思ったら、その謎はつづく「スカル」で解けます。
「スカル」はグリオールが死んだ、というか完全に解体された後の世界。
そして、舞台はほぼ現実世界であり、時間的にも現代に近いです。テマラグアという中米の架空の国が舞台ですが、著者が「作品に関する覚え書き」で書いているように、ニカラグアをモデルにしています。
アメリカ人の青年スノーは、この国で不思議な魅力を持つヤーラに出会います。ヤーラはグリオールの頭蓋骨と言われているものを中心に集めっている新興宗教の教祖の幼な顔も持っており、恐怖心を覚えたスノーは一旦そこを抜け出し、テマラグアからも出国します。
数年後、テマラグアではPVOと呼ばれる政治組織が進出し、反対する人びとを拷問し、暗殺するなどのテロルを行い、権力を掌握しつつありました。スノーはたまたま目にしたテマラグアで新興宗教の集団が姿を消したという記事から、ヤーラを思い出し、再びテマラグアへと向かいます。
そこでスノーは形を変えたグリオールの災いのようなものを経験するわけですが、ここで著者がグリオールを使って描きたかったものが見えてきます。
著者のルーシャス・シェパードは作家としてデビューするまでにフリージャーナリストとしてエルサルバドル内戦などを取材したもしており、中米でのさまざまな残虐行為を肌で感じ、それが何故起こってしまうのか? ということに疑問を持っていたのでしょう。本作では、その人びとや社会が狂っていく様子がグリオールという架空の存在を使って描かれています。
ファンタジーというジャンルに分類されるであろうこの連作ですが、本作に関してはかなり毛色が違っています。
前作から面白く読み進めてきたシリーズですが、まさかこんな形になるとは思いませんでした。このジャンル的なお約束を打ち破って展開するストーリーのドライブ感は魅力的ですね。
このシリーズにはもう1篇「Beautiful Blood」という作品があるそうなのですが、それもぜひ読んでみたいですね。