『レ・ミゼラブル』

 ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』の舞台ともなったパリ郊外のモンフェルメイユを舞台にした映画で、タイトルはそこから。ミュージカル映画ではありません。

 このモンフェルメイユ、「郊外」というキーワードからピンときた人もいるかも知れませんが、ほぼ住人が移民やその子どもたちで占められている集合住宅が立ち並んでいる場所です。

 フランスの「郊外」は、2005年に北アフリカ出身の三人の若者が警察に追われ逃げ込んだ変電所で感電し死傷したことをきっかけに起こった暴動のときに注目されました。

 住民は移民や低所得者ばかりで、失業率も高く、若者が不満を溜め込んでいるといった状況がニュースなどでも紹介されていたと思います。

 では、15年ほど経った現在はどうなのか? この映画はそれを教えてくれます。

 

 主人公のステファンはモンフェルメイユに赴任してきた警官で、初日から白人のクリスとアフリカ系の移民にルーツを持つグワダと街をパトロールします。

 街には薬物の密売組織があり、売春宿があり、イスラームの教えを子どもたちに説く一団がおり、マーケットで不法なショバ代を取ろうとするゴロツキのような移民系の市長がいます。

 登場する白人はほぼ警察関係者だけで、そこには「フランス」と聞いて想像するのとはまったく違う風景が広がっています。やや強い言い方をすれば、「植民地」のような光景です。

 そんな状況の中では当然ながら警察官は横暴になります。自分たちと異質な人間を従わせることができるのは力だけだと感じているからです。一方、赴任してきたばかりのステファンはクリスたちの価値観と振る舞いに戸惑います。

 そして、サーカス(ロマの一団)からライオンの子どもが盗まれたという訴えをきっかけに、事態は緊迫していくのです

 

 まず、この映画の優れた点は映画の大部分をステファンの赴任初日の1日が占めている点です。観客はステファンとともにモンフェルメイユを知りつつ、一気に緊迫の中へと投げ込まれます。

 登場人物を説明してからドラマを動かすのではなく、どんな人間かもよくわからないままにドラマが加速していくのです。

 そして何と言っても郊外のリアルな描写が効いています。監督のラジ・リはこのモンフェルメイユ出身で今でもここに住んでいるとのことですが、「移民」といってもさまざまな立場のアクターがいることを教えてくれます。

 更にラスト、宙づり的な終わり方ですが、この映画に関してはそれも上手く言っていると思います。ラストも含めてシャープな映画ですね。