レアード・ハント『インディアナ、インディアナ』読了

 約束してくれないかな、いま俺が言ったことを一言も信じないって。

 これはレアード・ハントインディアナインディアナ』の中のセリフで、知的障害か精神病を患っていると思われる主人公のノアの子供時代に、かれの家の近くにやってきたノコギリで音楽を奏でる鋸音楽師の言葉。
 彼は鋸音楽や話をするかわりにノアに農園のトマトとかメロンとかを要求するわけなんだけど、その鋸音楽師が最後にノアに残すのが冒頭の言葉。個人的にはこのくだりを読むだけで、この本を読んだ価値がありましたね。
 このレアード・ハントインディアナインディアナ』は、ノアという初老の男がストーブに手をかざしている場面から彼の人生のさまざまな出来事が語られる物語。
 こう書くと、いわゆる「意識の流れ」的な手法で書かれた小説のように思うかもしれないけど、全体の語りのトーンは意識の流れのように饒舌ではなく、ある種、詩の断片のような形で語られている。
 オーパルというこれまたおそらく精神病を患っていると思われる女性からの手紙が随所に挿入され、時間軸もはっきりしない。また、主人公のまわりの人間関係なども読み進めないとわからないのですが、だからといって、読み進めるたびにパズルのピースが埋まっていくような小説でもない。
 個人的には詩に近い小説ってことで、マイケル.オンダーチェの小説、特に『ビリー・ザ・キッド全仕事』とか『バディ・ボールデンを覚えているか』とかを思い出しましたね。
 訳は柴田元幸レアード・ハントは彼が『スペシャリストの帽子』のケリー・リンク、ポール・ラファージ(作品は未訳)とともに、ここ数年のアメリカ文学の中で「これだ」と思った作家ということですけど、それもうなずける作品、そして読書体験です。

インディアナ、インディアナ
レアード・ハント 柴田 元幸
4022501871


晩ご飯は餃子とキュウリ