2008年といえば、間違いなく経済危機の年として記憶されると思うのですが、実際に何が起こっているのかということをしっかりとわかっている人は少ないのではないでしょうか?
例えば、新聞やテレビを見れば、「アングロサクソン型資本主義の終焉」とか「アメリカの一極支配の終わり」とか「ドルの信任の失墜」とかすごい言葉が並んでいます。
ところが、今回のサブプライム問題に端を発する危機はアメリカだけでなくヨーロッパにも広がっていますし、その中でもアイスランドなどのヨーロッパの小国で壊滅的な被害が広がっています。ロシアの株式もアメリカ以上に暴落。そして何よりも円をのぞいたほとんどの通貨に対してドル高になっています。
もし、今回のサブプライム危機が日本のバブルと同じようなアメリカの土地バブル、住宅バブルであるなら、このような危機にはならなかったのではないでしょうか?
そんな疑問を解き明かしてくれるのがこの本。
今年の9月に出版された本で、まだリーマン・ショックが起こる前に書かれた本なのですが、その後の展開も含めて、今回の危機を十全に解説した本と言えるでしょう。
第1部では「ゴーン・ウィズ・ア・バブル」と題してバブルの発生のメカニズムを、第2部では2005年に行われたシンポジウムでとり上げられた今回の危機を先取りするようなセッションの様子を、第3部では「流動性」をキーワードにした今回の危機を分析をとり上げることで、今回の危機の要因とその広がり、そして考えられる対応策まで、わかりやすく、しかしながら高度に分析しています。
経済学の専門家ではありませんので、全体の分析を事細かに紹介することはしませんが、ポイントだと思う所をいくつか紹介しておきます。
まず、今回のアメリカの住宅バブルにおいて、主役を演じたのはアメリカの金融機関かもしれませんが、重要なサポート役を演じたのが産油国やアジア・ラテンアメリカの新興国家。
著者はこれらの国に十分な投資対象がなかったことが、アメリカのバブルにつながったと指摘しています。つまり、原油高騰、貿易黒字などによって資本を蓄積しながら、国内に十分な収益性を持った投資対象がないため、結局のところその資本はアメリカなどの先進国に投資されることになります。
この「搾取」しているわけでもないのに生まれてしまった「新興国から先進国へ」という資本の流れが、今回のバブルの大きな要因なのです(ですから、住宅バブルはアメリカだけでなくイギリスやスペインなどでも起きている)。
そしてもう一つ、第3部で紹介されている時価会計とファンダメンタルズの関係というのも興味深いです。
日本のバブル崩壊後の景気低迷では、銀行が資産の厳格な時価での査定を行わないことが不況を長引かせたという議論がなされましたが、今回の危機ではその時価会計という考えや危機を増幅させています。
バブルではファンダメンタルズから乖離した資産価格がつけられるという共通認識がありながら、下落時はファンダメンタルに見合った価格で下落は止まるはずだという「神話」を著者は批判するわけですが、これはその通りでしょう。
今思えば、バブル崩壊後の日銀の対応の遅れも、この「神話」に一つの原因があるのかもしれません。
これ以外にも、とにかくこの本でとり上げられている経済学者の考えはどれも刺激的で面白く、そして現実の経済現象に鋭く切り込んでいるものばかり。
そして、それらの議論をわかりやすくまとめ、現在の危機をしっかりと組み合わせて紹介している著者の仕事も見事だと思います。
おそらく、今年1年を代表する経済書となるのではないでしょうか?