ボフミル・フラバル『剃髪式』

 『あまりに騒がしい孤独』池澤夏樹の世界文学全集に入っていた『わたしは英国王に給仕した』などで知られるチェコの作家ボフミル・フラバル。そのフラバルの作品を集めた松籟社「フラバル・コレクション」の第2弾がこの『剃髪式』になります。
 1970年に出版されたこの作品は150ページほどの中編と言っていいもので、フラバルの母親と彼の育ったビール醸造所についての話です。
 舞台は1920年代のボヘミア地方の小さな町。第1次世界大戦におけるオーストリアの敗北によってチェコスロバキア共和国が誕生し、今までの保守的な生活が崩れ始め、ラジオなどの新しい機器が生活の場に登場しはじめ、時代が変わろうとしていた時です。

 
 そんな中でも、主人公のマリシュカ(フラバルの母)の行動は斬新というかぶっ飛んでいます。
 ほら話がどんどん重なって大きくなていくのはフラバルの小説の特徴なんですけど、母をモデルにしたというこの小説でもそのほら話の輝きは際立っています。
 特にマリシュカとペピンおじさんがビール醸造所の煙突に登るエピソードは、爽快でその描写も美しいほら話です。
 ただ、『あまりに騒がしい孤独』や『わたしは英国王に給仕した』にあるような「ほら話の中にあるグロテスクさ」といったものは、この作品にはあまり感じられません。個人的にはそのあたりがフラバルの小説の一番の売りのような気がするので、そのあたりはちょっと物足りないですね。『あまりに騒がしい孤独』や『わたしは英国王に給仕した』に比べると、やや軽めの作品になると思います。


剃髪式 (フラバル・コレクション)
ボフミル・フラバル 阿部 賢一
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