イアン・R・マクラウド『夏の涯ての島』読了

 律儀に読み続けている「プラチナ・ファンタジイ」シリーズの第4弾、イアン・R・マクラウド『夏の涯ての島』を読了。帯に「叙情SF短編の名手」とあって、確かにそんな感じなのですが少し書き過ぎの感があるかな?
 著者のイアン・R・マクラウドは1956年生まれのイギリス人の作家で、解説では「同世代ではイーガンと肩を並べる存在」などという紹介も書かれていますが、SF的なディティールの構想力ではイーガンにははるかに及ばないです。この本の収録作の「わが家のサッカーボール」、「ドレイク方程式に新しい光を」では、さまざまな姿に変身する人間や翼をはやして飛ぶ人間というものがSF的なものとして描かれているのですが、イーガンが構想するリアルで緻密な近未来と比べるとやや興ざめな感がします。
 一方、「チョップ・ガール」や「夏の涯ての島」といった歴史もの、あるいは歴史改変ものはそういった無理がないこともあって読み応えがあります。
 第2次大戦時の英国空軍基地を舞台に、悪運をもたらす”チョップ・ガール”だとされてしまった主人公の女性と、危機を何度も生き延び幸運の男とされるウォルト・ウィリアムズの交流を描いた「チョップ・ガール」は、個人的にはやや飾りをつけすぎな文体のような気もしますが、うまい短編だと思いますし、第1次大戦に敗北しジョン・アーサーという独裁者によって支配されているイギリスを描いた「夏の涯ての島」はこの本の中でも一番面白い中編で、改変された歴史とその中で起こるドラマが密度の濃い筆致で書かれています。
 この他には「転落のイザベル」と「息吹き苔」という”10001世界”という未来の宇宙世界を舞台にした作品があるのですが、正直これはつまらない。
 ちょっとジーン・ウルフとかをねらったファンタジイのような感じなのですが、肝心の世界観が弱いというか魅力がない。SF的な設定でもそうですが、マクラウドは”世界観”にちょっと弱点がありますね。


夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)
イアン R.マクラウド 浅倉 久志
4152088877


晩ご飯はほうとう