上林陽治『非正規公務員のリアル』

ある制度が良いのか悪いのかというのはなかなか難しく、簡単には判断を下せないケースが多いのです。例えば、選挙制度は小選挙区制がいいのか比例代表制がいいのか、日本型の雇用制度が良いのか悪いのか、といったことは一概には判断を下せないと思っていま…

アン・ケース/アンガス・ディートン『絶望死のアメリカ』

『大脱出』の著者でもあり、2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンとその妻で医療経済学を専攻するアン・ケースが、アメリカの大卒未満の中年白人男性を襲う「絶望死」の現状を告発し、その問題の原因を探った本。 この絶望しに関しては、…

『ノマドランド』

一時期、日本でも「ノマドワーカー」というオフィスなどではなくカフェなどで移動しながら仕事をするスタイルが局所的に持ち上げられましたが(安藤美冬さんとか何をしているんだろう?)、この映画に出てくる「ノマド」は全く違うものです。 この映画に出て…

パク・ソルメ『もう死んでいる十二人の女たちと』

ここ最近、多くの作品が翻訳されている韓国文学ですが、個人的には、『ギリシャ語の時間』や『回復する人間』のハン・ガンと、『ピンポン』や『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』のパク・ミンギュがちょっと抜けた存在のだと思っていましたが、この…

Cassandra Jenkins / An Overview on Phenomenal Nature

CD

ニューヨーク出身のシンガーソングライターCassandra Jenkinsの2ndアルバム。 ジャンル的にはアンビエント・フォークという分類になりますかね。最近、きちんと音楽情報を終えていないのでよくは知らないのですが、ジョシュ・カウフマンという著名な人物がプ…

山口慎太郎『子育て支援の経済学』

『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)でサントリー学芸賞を受賞した著者による、子育て支援の政策を分析した本。 『「家族の幸せ」の経済学』も面白かったのですが、個人的にはマッチングサイトや離婚の話などは置いておいて、もっと著者の専門である子…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』

見てきました。まさに「さよなら、すべてのエヴァンゲリオン」というキャッチコピーが当てはまる作品でした。 3月8日に公開して以来、別にネット断ちをしていたわけでなくTwitterも普通に見ていたのですが、自分のTLではネタバレは皆無。 おそらくネタバレし…

郝景芳『人之彼岸』

短編の「折りたたみ北京」、そして先日読んだ長編の『1984年に生まれて』が非常に面白かった中国の女性作家・郝景芳(ハオ・ジンファ)の短編集。 「人之彼岸」というタイトルからも想像できるかもしれませんが、AIをテーマにした短編が並んでいます。 この…

エリカ・フランツ『権威主義』

ここ最近、民主主義をテーマにした本が数多く出版されていますが、民主主義ではない政治というのは一体どんなものでしょう? 本書は、その「民主主義ではない政治」である権威主義について語ったものになります。オックスフォード大学出版局の「What Everyon…

『花束みたいな恋をした』

数々の良質なドラマの脚本を書いてきた坂元裕二によるオリジナル・ストーリーですが、まずはやはり脚本がうまい。 主人公は菅田将暉演じる麦と有村架純演じる絹。この2人のまだ学生だった20代前半から5年ほどの彼らの歩みを描いているのですが、彼らはともに…

坂口安紀『ベネズエラ』

副題は「溶解する民主主義、破綻する経済」で、中公選書の1冊になります。 ベネズエラに関しては、コロナ前に経済がほぼ崩壊しているといったニュースが流れていました。その後、コロナ禍の影響でベネズエラに関するニュースは減っていますが、この状況で経…

川島真・森聡編『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』

新しく始まった東京大学出版会の「UP plus」シリーズの1冊目の本。タイトル通りに、コロナ禍の中の、あるいはコロナが収まったとしてその後の米中関係を中心とした世界秩序を占う本になります。 形式としては、まず、縦書き3段組の対談が2本載っており、その…

崎山蒼志 / find fuse in youth

CD

去年の秋にやっていたNHKの「うたコン」で見て、「これは!」って思った崎山蒼志のメジャーでニューアルバム。 「うたコン」ではこのアルバムにも収録されている"Samidare"を歌ったのですが、高校生とは思えないギターテクと少しズレたような歌、でも、ギタ…

パウリーナ・フローレス『恥さらし』

白水社の<エクス・リブリス>シリーズの1冊で、著者は1988年生まれのチリの若手女性作家。チリといえばドノソやボラーニョが思い浮かぶわけですが、訳者の松本健一が「訳者あとがき」で指摘しているように、「日本でも翻訳文学に親しんでいる人ほどラテンア…

エリック・ウィリアムズ『資本主義と奴隷制』

なぜイギリスは世界ではじめての工業化を成し遂げ、ヴィクトリア時代の繁栄を謳歌しえたのか。この歴史学の大問題について、20世紀半ばまでは、イギリス人、特にピューリタンの勤勉と禁欲と合理主義の精神がそれを可能にしたのだとする見方が支配的だった…

スーパークレイジー君の当選によせて

2021年1月31日の埼玉県戸田市の市議会議員選挙(定数26)において、2020年の都知事選でもそのパフォーマンスが話題なったスーパークレイジー君こと西本誠氏が25番目の912票の得票で初当選しました(政治家としてもスーパークレイジー君として活動するとのこ…

『KCIA 南山の部長たち』

1979年10月26日に起きた韓国のパク・チョンヒ大統領暗殺事件を描いた映画。南山(ナムザン)の部長とは、韓国中央情報局(KCIA)のトップのことで、パク・チョンヒ大統領を暗殺したキム・ジェギュ部長が本作の主人公となりますが、本作では「フィクション」…

Fontaines D.C. / A Hero's Death

CD

アイルランド・ダブリン出身のポストパンクバンド。すでに話題になっていたバンドですが、自分は年末の2020年ベストアルバムにあがっているバンドをいくつかチェックしていく中で知りました。 音を聞いて個人的に思い起こすすのはミッシェル・ガン・エレファ…

ハン・ガン『すべての、白いものたちの』

恢復するたびに、彼女はこの生に対して冷ややかな気持ちを抱いてきた。恨みというには弱々しく、望みというにはいくらか毒のある感情。夜ごと彼女にふとんをかけ、額に唇をつけてくれた人が凍てつく戸外へ再び彼女を追い出す。そんな心の冷たさをもう一度痛…

蒲島郁夫/境家史郎『政治参加論』

政治学者で現在は熊本県知事となっている蒲島郁夫の1988年の著作『政治参加』を、蒲島の講座の後任でもある境家史郎が改定したもの。基本的には有権者がどのように政治に参加し、そこにどのような問題があるのかを明らかにした教科書的な本になります。 この…

郝景芳『1984年に生まれて』

「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞した中国の作家による自伝体小説。 著者のことはケン・リュウ編『折りたたみ北京』と『月の光』という中国のSFアンソロジーを通じて知っていたので、本書もSF的な要素があると予想して読み始めました。タイトルの「19…

ピエール・ロザンヴァロン『良き統治』

副題は「大統領制化する民主主義」。18〜19世紀にかけて民主主義の中心は議会であり、立法権であると考えられていましたが、20世紀半ば以降、執行権(行政権)こそが実質的な政治を動かすものだという認識が強まり、政治の評価を執行権(行政権)のトップで…

2020年の紅白歌合戦を振り返る

TV

あけましておめでとうございます。 新年最初の更新は例年通り、紅白歌合戦の振り返りからですが、今回の最大の注目ポイントは「紅組の勝利」。 もちろん、第2部を見れば紅組のほうが穴のない布陣で純粋な歌唱の点から言うと紅組の勝利で何の不思議もないので…

2020年の映画

映画館で見た映画は15本(ブログで感想書いた14本と子どもと一緒行った『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』)。コロナの影響で3月から6月までの3ヶ月、そして6月から9月までの3ヶ月と映画を見ない時期がありましたが、その割には、けっ…

『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』

今さらながら見てきました。 ついに興行成績が過去最高になったわけですが、結果論的に言うと、TVシリーズを欲張りせずに中途半端なところで終わらせて、このエピソードで劇場版を作った戦略の勝利という感じですかね。 TVアニメの「鬼滅の刃」をスタートさ…

2020年ベストアルバム

CD

今年もたいして枚数は聴けずで5枚だけあげますが、Badly Drawn Boyのまさかの復活とか、ほぼノーマークのAnjimileを発見できたりとか、良かったと思うこともいくつか。 ただ、邦楽は相変わらず新しいアーティストを見つけられずで、時流から取り残され続けて…

2020年の本

例年通り、今年読んで面白かった小説以外の本(社会科学の本ばかり)と小説を紹介ます。 今年はコロナの影響で自宅勤務になったりして「いつも以上に本が読めるのでは?」などとも思いましたが、子どもがいる限り無理でしたね。そして、小説は読むスピードが…

松永伸太朗『アニメーターはどう働いているのか』

酒井 正『日本のセーフティーネット格差』とともに、第43回労働関係図書優秀賞を受賞した本で、その受賞で本書の存在を知って読んでみましたが、なかなか面白い本です。 まず、単純にアニメーターたちがどんなふうに仕事を行っているのかという点も興味深い…

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』

ピュリッツァー賞に全米図書賞、さらにはアーサー・C・クラーク賞を受賞し、日本では2017年のTwitter文学賞・海外部門を受賞した小説。かつて、アメリカに存在した南部の奴隷を北部に逃がす組織「地下鉄道」をモチーフにした作品になります。 奴隷の逃亡を助…

Mr.Children / SOUNDTRACKS

CD

Mr.Childrenのニューアルバムですが、前々作「REFLECTION」、前作「重力と呼吸」はプロデューサーの小林武史と決別して、「原点回帰」といった印象の強いアルバムでしたが、今作はピアノもあり、ストリングスもありと、小林武史がいた頃に近い編成で演奏され…