北村亘編『現代官僚制の解剖』

2019年に出版された青木栄一編著『文部科学省の解剖』は、過去に村松岐夫が中心となって行った官僚サーベイ(村松サーベイ)を参考に、文部科学省の官僚に対して行ったサーベイによって文部科学省の官僚の実態を明らかにしようとしたものでした。 本書は、そ…

『犬王』

見終わった最初の感想は「これはクイーンであり、犬王はフレディ・マーキュリーだ」ということ。映画の中のかなりの時間をステージのシーンが占めているのですが、それがとにかく過剰。 湯浅政明監督は、アニメならではのさまざまな効果を存分に使って作品を…

ファン・ジョンウン『年年歳歳』

短編集『誰でもない』が面白かったファン・ジョンウンの長編で、韓国で2020年に「小説家50人が選ぶ今年の小説」にも選ばれているとのことです。 この小説を書くことになったきっかけは、著者が順子(スンジャ)という女性に数多く会ったことだといいます。19…

Kendrick Lamar / Mr. Morale & The Big Steppers

Kendrick Lamarの5年ぶりのニューアルバム。「ザ・ビッグ・ステッパー」と「ミスター・モーラール」というタイトルの2枚組の構成という形になっています。 「DAMN.」がアルバム全体を通じてやや重苦しいムードがあったのに対して、今作はトラックもバラエ…

郝景芳『流浪蒼穹』

短編「折りたたみ北京」や長編の『1984年に生まれて』で知られる郝景芳のデビュー作にして、本格的な火星SFとなっています。 裏表紙に書かれた紹介は次のようになっています。 22世紀、地球とその開発基地があった火星のあいだで独立戦争が起き、そして火星…

リン・ハント『人権を創造する』

タイトルからして面白そうだなと思っていた本ですが、今年になって11年ぶりに重版されたのを機に読んでみました。 「人権」というのは、今生きている人間にとって欠かせないものだと認識されていながら、ある時代になるまでは影も形もなかったという不思議な…

『シン・ウルトラマン』

いろいろと賛否両論あるみたいですが、個人的には面白かったです。 なんといっても山本耕史のメフィラス星人は最高ではないですか。ここ最近の実写のキャラの中ではピカイチと言ってもいいくらいで、「私の好きな言葉です」のセリフといい、このキャスティン…

Fontaines D.C. / Skinty Fia

CD

アイルランド・ダブリン出身のバンドの3rdアルバム。ジャンルとしてはポスト・パンクで、前作の「A Hero's Death」から聞き始めてます。 とにかく非常に雰囲気の良いバンドだと思ったのだけど、この手のバンドの難しさは雰囲気の良さで押せるのは最初だけで…

『RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編] 君の列車は生存戦略』

昨年、放送から10周年を迎えたTVアニメ「輪るピングドラム」の劇場版。 子ども姿で記憶をなくしている冠葉と晶馬が池袋のサンシャイン水族館で不思議な赤ちゃんペンギンに出会うところから映画はスタートします。TV版の最終回で冠葉と晶馬は子どもの姿になっ…

オリヴィエ・ブランシャール/ダニ・ロドリック編『格差と闘え』

2019年10月にピーターソン国債経済研究所で格差をテーマとして開かれた大規模なカンファレンスをもとにした本。目次を見ていただければわかりますが、とにかく豪華な執筆陣でして、編者以外にも、マンキュー、サマーズ、アセモグルといった有名どころに、ピ…

ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』

2019年のTwitter文学賞の海外編1位など、さまざまなところで評判を読んでいた本がこの度文庫化されたので読んでみました(それにしても本屋大賞の翻訳小説部門第2位とTwitter文学賞が帯で並んで紹介されているのは熱いですね)。 全部で24篇の短編が収録され…

岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』

近年、さまざまな場所で批判的に語られることが多いPTA。どんな事情があってもやらされるかもしれない恐怖の役員決め、非効率の権化のように言われてるベルマーク集めなど、PTAについてのネガティブな話を聞いたという人は多いと思います。 また、PTAをなく…

Christian Lee Hutson / Quitters

CD

Phoebe Bridgersが来日した際にギタリスト、そして前座を務めていたLAを拠点にするフォーク・シンガーの2ndアルバム。 ギター中心の非常にオーソドックスなフォークかと思いきや、1曲目の"Strawberry Lemonade"も最後で少し変化をつけてきますし、3曲目の"Ru…

渡邉有希乃 『競争入札は合理的か』

公共事業では、それを施工する業者を入札で決めることが一般的です。多くの業者が参加して、その中で最安を提示した業者がその工事を落札するわけです。 ところが、日本の公共事業では指名競争入札という形で、発注側が入札できる業者をあらかじめ指定したり…

スタニスワフ・レム『地球の平和』

第2期の刊行が始まった国書刊行会の「スタニスワフ・レム・コレクション」の第2弾は〈泰平ヨン〉シリーズの最終作にして、レムにとって最後から2番目の小説になります。 カバー見返しの内容紹介は次のようになります。 自動機械の自立性向上に特化された近…

『コーダ あいのうた』

今年のアカデミー賞の作品賞と助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞を獲った作品。 冒頭は漁船のシーンで、主人公のルビーが歌いながら漁を手伝っていますが、一緒に乗っている父と兄は気にしていません。なぜなら、二人とも耳の聞こえない聾唖者だから…

『ベルファスト』

北アイルランドのベルファスト出身のケネス・ブラナーが監督・脚本を務めた作品。ケネス・ブラナーの自伝的要素も強いと言います。 最初は、鮮やかな現在のベルファストの映像から始まりますが、舞台となる1969年のシーンが始まるとモノクロになり、プロテス…

竹中佳彦・山本英弘・濱本真輔編『現代日本のエリートの平等観』

近年、日本でも格差の拡大が問題となっていますが、その格差をエリートたちはどのように捉えているのでしょうか? 本書は、そんな疑問をエリートに対するサーベイ調査を通じて明らかにしようとしたものになります。 このエリートに対する調査に関しては、198…

崎山蒼志 / Face To Time Case

CD

昨年出た「find fuse in youth」が素晴らしかった崎山蒼志のアルバム。メジャーデビュー後の2ndアルバムということになりますね。 今作もメロディー的には光るものがあり、また全体的なスケール感もアップしています。 ただし、そのスケール感のアップがいい…

野島剛『蔣介石を救った帝国軍人』

もと朝日新聞の記者で『香港とは何か』(ちくま新書)など台湾や香港に関する著作で知られる著者が、2014年に『ラスト・バタリオン』のタイトルで講談社から出版した本が改題されて文庫化されたものになります。 副題は「台湾軍事顧問団・白団の真相」となっ…

村上春樹『女のいない男たち』

映画の『ドライブ・マイ・カー』を見て、その物語の複雑な構造に感心したので、「原作はどうなってるんだろう?」と思い、久々に村上春樹を読んでみました。 以下、映画と本書のネタバレを含む形で書きます。 映画はこの短編集の中から「ドライブ・マイ・カ…

渡辺努『物価とは何か』

ここ最近、ガソリンだけではなく小麦、食用油などさまざまなものの価格が上がっています。ただし、スーパーなどに行けば米や白菜や大根といった冬野菜は例年よりも安い価格になっていることにも気づくでしょう。 このようなさまざまな商品の価格を平均化した…

閻連科『年月日』

現代中国を代表する作家の1人である閻連科。今まで読んだことがなかったので、今回、この『年月日』が白水Uブックに入ったのを機に読んでみました。 最後に置かれた「もう一人の閻連科 ー 日本の読者へ」で、閻連科本人が、自分は「論争を引き起こす作家、凶…

Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe In You

CD

2019年に「U.F.O.F.」と「Two Hands」いう2枚の良質なアルバムをリリースして一躍脚光を浴びたBig Thiefの新作は20曲1時間20分というボリュームでCDだと2枚組リリース。 もとからメロディは冴えていますし、ボーカルのAdrianneの声もいいのですが、今作では…

S・C・M・ペイン『アジアの多重戦争1911-1949』

満州事変から日中戦争、太平洋戦争という流れを「十五年戦争」というまとまったものとして捉える見方がありますが、本書は中国における1911年の清朝崩壊から1949年の中華人民共和国の成立までを一連の戦争として捉えるというダイナミックな見方を提示してい…

オクテイヴィア・E・バトラー『キンドレット』

黒人の女性SF作家で、ヒューゴ賞やネビュラ賞も獲得したことのあるオクテイヴィア・E・バトラーの長編作品。日本では1992年に翻訳刊行され、今回は河出文庫からの文庫化になります。 26歳の黒人女性のデイナはケヴィンという白人の恋人とともに暮らし、作家…

ジェレミー・ブレーデン/ロジャー・グッドマン『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』

なんとも興味を引くタイトルの本ですが、実際に非常に面白いです。 2010年前後、日本では大学の「2018年問題」が新聞や雑誌を賑わせていました。これは2018年頃から日本の18歳人口が大きく減少し始め、それに伴って多くの私立大学が潰れるだろうという予想で…

宇多田ヒカル / BADモード

CD

人間には自分と似ている人間に共感すると同時に、自分とはまったく似ていない人間に感心するというか、畏敬の念を抱くことがあると思うのですが、自分にとって宇多田ヒカルは後者の代表例です。 例えば、"誰にも言わない"の歌詞の次の部分。 一人で生きるよ…

『ドライブ・マイ・カー』

去年の秋から見たいと思いつつも予定が合わなくて「見逃したか…」と思ってましたけど、ようやく見ることができました。 原作は村上春樹の短編で未読なのですが、村上春樹の短編がここまで複雑な構造の話になっていることにまず驚きました。 主人公は舞台俳優…

筒井淳也『社会学』

先日紹介した松林哲也『政治学と因果推論』に続く、岩波の「シリーズ ソーシャル・サイエンス」の1冊。 社会科学の中でも「サイエンス」とみなされにくい社会学について、「社会学もサイエンスである」と主張するのではなく、「社会を知るには非サイエンス的…