蒲島郁夫/境家史郎『政治参加論』

政治学者で現在は熊本県知事となっている蒲島郁夫の1988年の著作『政治参加』を、蒲島の講座の後任でもある境家史郎が改定したもの。基本的には有権者がどのように政治に参加し、そこにどのような問題があるのかを明らかにした教科書的な本になります。 この…

郝景芳『1984年に生まれて』

「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞した中国の作家による自伝体小説。 著者のことはケン・リュウ編『折りたたみ北京』と『月の光』という中国のSFアンソロジーを通じて知っていたので、本書もSF的な要素があると予想して読み始めました。タイトルの「19…

ピエール・ロザンヴァロン『良き統治』

副題は「大統領制化する民主主義」。18〜19世紀にかけて民主主義の中心は議会であり、立法権であると考えられていましたが、20世紀半ば以降、執行権(行政権)こそが実質的な政治を動かすものだという認識が強まり、政治の評価を執行権(行政権)のトップで…

2020年の紅白歌合戦を振り返る

TV

あけましておめでとうございます。 新年最初の更新は例年通り、紅白歌合戦の振り返りからですが、今回の最大の注目ポイントは「紅組の勝利」。 もちろん、第2部を見れば紅組のほうが穴のない布陣で純粋な歌唱の点から言うと紅組の勝利で何の不思議もないので…

2020年の映画

映画館で見た映画は15本(ブログで感想書いた14本と子どもと一緒行った『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』)。コロナの影響で3月から6月までの3ヶ月、そして6月から9月までの3ヶ月と映画を見ない時期がありましたが、その割には、けっ…

『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』

今さらながら見てきました。 ついに興行成績が過去最高になったわけですが、結果論的に言うと、TVシリーズを欲張りせずに中途半端なところで終わらせて、このエピソードで劇場版を作った戦略の勝利という感じですかね。 TVアニメの「鬼滅の刃」をスタートさ…

2020年ベストアルバム

CD

今年もたいして枚数は聴けずで5枚だけあげますが、Badly Drawn Boyのまさかの復活とか、ほぼノーマークのAnjimileを発見できたりとか、良かったと思うこともいくつか。 ただ、邦楽は相変わらず新しいアーティストを見つけられずで、時流から取り残され続けて…

2020年の本

例年通り、今年読んで面白かった小説以外の本(社会科学の本ばかり)と小説を紹介ます。 今年はコロナの影響で自宅勤務になったりして「いつも以上に本が読めるのでは?」などとも思いましたが、子どもがいる限り無理でしたね。そして、小説は読むスピードが…

松永伸太朗『アニメーターはどう働いているのか』

酒井 正『日本のセーフティーネット格差』とともに、第43回労働関係図書優秀賞を受賞した本で、その受賞で本書の存在を知って読んでみましたが、なかなか面白い本です。 まず、単純にアニメーターたちがどんなふうに仕事を行っているのかという点も興味深い…

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』

ピュリッツァー賞に全米図書賞、さらにはアーサー・C・クラーク賞を受賞し、日本では2017年のTwitter文学賞・海外部門を受賞した小説。かつて、アメリカに存在した南部の奴隷を北部に逃がす組織「地下鉄道」をモチーフにした作品になります。 奴隷の逃亡を助…

Mr.Children / SOUNDTRACKS

CD

Mr.Childrenのニューアルバムですが、前々作「REFLECTION」、前作「重力と呼吸」はプロデューサーの小林武史と決別して、「原点回帰」といった印象の強いアルバムでしたが、今作はピアノもあり、ストリングスもありと、小林武史がいた頃に近い編成で演奏され…

『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』

中国のアニメで読み方は「ロシャオヘイせんき」になります。 冒頭は『もののけ姫』みたいですし、ラストに出てくる館は『千と千尋の神隠し』みたいと、ジブリを中心とする日本のアニメに強く影響を受けているのがわかるのですが、これは面白いし、よくできて…

小熊英二、樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』

ここ最近話題になっている「右傾化」の問題。「誰が右傾化しているのか?」「本当に右傾化しているのか?」など、さまざまな疑問も浮かびますが、本書はそういった疑問にさまざまな角度からアプローチしています。 実は、国民意識に関しては特に「右傾化」と…

シェルドン・テイテルバウム 、エマヌエル・ロテム編『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』

ここ最近、「グリオール」シリーズなどのSFを出している竹書房文庫から出たのが、この『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』。 知られざるイスラエルのSFの世界を紹介するという意味では、中国SFを紹介したケン・リュウ編『折りたたみ北京』、『…

Travis / 10 Songs

CD

Travis、4年ぶりのニューアルバム。 もはや新しい展開などを期待するようなキャリアではないですし、ファンも「昔のグッドメロディ」を求めているのでしょうが、ずばりそれに応える内容ですね。 1曲目の"Waving At The Window"から、Travis節全開という感じ…

エマニュエル・サエズ/ガブリエル・ズックマン『つくられた格差』

ピケティの共同研究者でもあるサエズとズックマンのこの本は、格差の原因を探るのではなく、格差を是正するための税制を探る内容になっています。序のタイトルが「民主的な税制を再建する」となっていますが、このタイトルがまさに本書の内容を示していると…

Anjimile / Giver Taker

CD

ボストンを拠点に中心に活動しているアフリカ系アメリカ人のシンガーソングライターAnjimile(すいませんが読み方はよくわからない)のデビューアルバム。ちょっとググったところによるとトランスジェンダーの人でもあるらしいです。 黒人の音楽というとなん…

善教将大『日本における政治への信頼と不信』

今年はコロナ問題に明け暮れた感じでしたが、3〜7月頃の緊急事態宣言からその解除、さらに「Go To Travel」をめぐるを見ながら感じたのが、日本のおける政府に対する信頼の低さ。 各国では危機の高まりとともに政治指導者に対する支持があがる傾向がありまし…

『スパイの妻 劇場版』

冒頭の蒼井優の初登場シーンは本当に見事で、戦前の神戸の街の撮り方も加わって、最初は素晴らしく格調の高い映画だと感じましたが、途中からB級映画的なテイストも加わってくるのが黒沢清ならではですね。 蒼井優演じる聡子は貿易商を営む福原優作(高橋一…

Doves / The Universal Want

CD

今年アルバムをリリースしたBadly Drawn Boyも懐かしかったけど、このDovesも懐かしい!00年代に活躍したマンチェスター出身の3人組で、2009年以来のアルバムリリースのなりますね。 というわけでメンバーももう50代だと思うのですが、1曲目の"Carousels"か…

西川賢『分極化するアメリカとその起源』

現在行われている大統領選挙やその他の政治的な風景を見ても、アメリカの政治が「分極化」していることは容易に見て取れます。共和党と民主党では、その世界観や生活スタイルまですべてが違ってしまっている感じです。 しかし、以前のアメリカでは政党の規律…

Sufjan Stevens / The Ascension

CD

Sufjan Stevens、5年ぶりのオリジナルフルアルバム。フルもフルで収録時間は1時間21分もあります。 前作の「Carrie & Lowell」は私的で静謐な感じのするアルバムでしたが、今回は「The Age of Adz」の路線ですね。過剰なまでにさまざまな要素を盛り込んでい…

ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『忘却についての一般論』

白水社<エクス・リブリス>シリーズの1冊で、アンゴラ生まれの作家によるアンゴラの内戦を背景にした作品。 著者はアンゴラでポルトガル・ブラジル系の両親のもとに生まれ、リスボンの大学を出て文筆業に入っています。書く言語はポルトガル語になります。 …

宍戸常寿・大屋雄裕・小塚荘一郎・佐藤一郎編著『AIと社会と法』

宍戸常寿・大屋雄裕・小塚荘一郎・佐藤一郎の4人が、有斐閣の『論究ジュリスト』誌上で行った研究会の様子をまとめた本になります。法学者の宍戸、大屋、小塚と工学者の佐藤の4人がコアメンバーとなり、1回につき2人のゲストスピーカーを迎えながら、AIがも…

ウィリアム・トレヴァー『ラスト・ストーリーズ』

2016年に亡くなったアイルランド生まれの短篇の名手ウィリアム・トレヴァーの最後の短篇集。 短篇というと、よく「何を書かないかが重要だ」といったことが言われますが、トレヴァーの短編は、まさにそれ。ただ、お手本というには本当にびっくりするほど「書…

THA BLUE HERB / 2020

CD

THA BLUE HERB、5曲入のミニアルバム。去年、2枚組のセルフタイトルのアルバムが出ていたことに気づかなったかという情弱ですが(音楽雑誌読まなくなるとこのあたりがダメですね)、このミニアルバムには気づくことができました。 というわけで、THA BLUE HE…

ピーター・テミン『なぜ中間層は没落したのか』

著者は著名な経済史家で、経済学の立場としてはケインジアンだといいます。そんな著者が「なぜ中間層は没落したのか」というタイトルの本を書いたというと、近年の経済の動きと格差の拡大を実証的に分析した本を想像しますが、本書はかなり強い主張を持った…

『TENET テネット』

クリストファー・ノーランの新作は時間の逆行というアイディアを取り入れたSFもの。映画の中にありえない世界を作り上げるという点では『インセプション』に似ていますが、やろうとしていることはさらにややこしいです。 緻密なんだか大ボラなんだにわかには…

駒村圭吾・待鳥聡史編『統治のデザイン』

憲法というと、どうしても日本では9条と人権をめぐる条項に注目が集まりがちですが、国会、内閣、裁判所、地方自治といった日本の統治のしくみを決めているのも憲法です。 ケネス・盛・マッケルウェインは日本国憲法が他国の憲法に比べて条文数も文字数も少…

ファトス・コンゴリ『敗残者』

松籟社<東欧の想像力>シリーズの最新刊。今回はアルバニアの最重要作家とされるファトス・コンゴリのデビュー作になります。 この小説は主人公のセサルが、1991年にアルバニアからイタリアへと脱出する船に乗りながら、土壇場で船降りて故郷に戻ってしまう…