政治

 茶谷誠一『象徴天皇制の成立』

占領期の政治を詳しく見ていくと、占領期に昭和天皇が果たした役割を無視するわけにはいかないと感じますし、敗戦によって大権を失ったはずの昭和天皇がある意味で生き生きと積極的に政治に関わろうとする姿も見えてきます。 基本的に日本国憲法の施行によっ…

 ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』

一言でいえば新自由主義批判の本ですが、新自由主義がいかに格差社会を生み出したか、というような批判ではなく、新自由主義が政治の語彙を経済の語彙に変えてしまい、それが政治を歪めているということを、フーコーの『生政治の誕生』における「統治」の概…

 マイケル・L・ロス『レント、レント・シージング、制度崩壊』

『石油の呪い』が面白かったマイケル・L・ロスが2001年に出した本の翻訳で、こちらは木材ブームとそれが制度にもたらす影響を分析しています。 原題は「TIMBER BOOMS AND INSTITUTIONAL BREAKDOWN」。それをレント・シーキングを研究する研究者たちが訳した…

 ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』

イギリスのEU離脱の国民投票にトランプ大統領の誕生と、去年から「ポピュリズム」という言葉が世界の流行語大賞になるのではないかというくらいに使われていますが、では、「ポピュリズムとは何か?」と問われると意外にその答えは難しいと思います。 去年の…

 田中拓道『福祉政治史』

「福祉国家」というと、もはや否定されつつある古臭いイメージがあるかもしれませんが、「福祉国家」は死滅しつつある存在ではありません。スウェーデンなどの北欧諸国はさまざまな改革を行いつつ、充実した福祉と経済的パフォーマンスを両立させていますし…

 真辺将之『大隈重信』

明治初期の日本の近代化を進めた中心人物であり、二度首相を務め、早稲田大学の創立者としても有名な大隈重信。しかし、意外にも手に取りやすい評伝はあまり見当たらないのが現状です。 そんな中で中公叢書から大隈の評伝が登場。本文だけで450ページ超とい…

 竹中治堅編『二つの政権交代』

2009年の民主党の政権獲得と2012年の自民党の政権奪還は政策をどのように変えたのか? これを8人の政治学者が核政策分野を分担する形で論じたのがこの本になります。構成や執筆者からすると御厨貴編『「政治主導」の教訓』のその後を検証したような本といえ…

 マイケル・L・ロス『石油の呪い』

サウジアラビアやUAEやクウェートやカタール、あるいはブルネイ、あるいはノルウェー、いずれも豊かな産油国であり、「それに比べて資源の乏しい日本では…」といった思いを抱きがちですが、経済学を少しかじったことのある人なら、石油の存在がかえって経済…

 稲葉振一郎『政治の理論』

社会学者でありながら、『経済学という教養』、『不平等との闘い』(文春新書)などで経済学にも越境して仕事をしてきた著者が、政治の理論についての入門書をということで企画されたのがこの本。 当初は、中公新書の予定だったそうですが、新書としてはまと…

 曽我謙悟『現代日本の官僚制』

もちろんこれは歴史的事実とは異なる。歴史的事実としては、官僚制は君主制や権威主義体制の下で王や支配者に仕える統治機構として、長らく存在してきた。そうした官僚制の中には、民主化の際に抵抗を見せ、民主化後も議会にの統制に服しないものも見られた…

 トーマス・シェリング『ミクロ動機とマクロ行動』

2005年にノーベル経済学賞を受賞し、昨年の12月に95歳で亡くなったトーマス・シェリングの比較的一般向けに書かれた本。 ノーベル経済学賞を受賞したシェリングですが、経済学者というよりはゲーム理論の専門家と言うほうがその業績はわかりやすいかもしれま…

 鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』

社会保障を専門とする経済学者の鈴木亘が、橋下市長のもとで大阪市の特別顧問となり、日本最大の日雇い市場がを抱えホームレスや生活保護受給者が集中する「あいりん地域」の改革にチャレンジした「戦い」の記録。 タイトルからすると、鈴木亘はあいりん地域…

 待鳥聡史『アメリカ大統領制の現在』

アメリカ大統領選におけるトランプ勝利に衝撃を受けた人も多いでしょうし、選挙戦での彼の主張が実行されたら世界は大変なことになると心配している人も多いのでないかと思います。実際に大統領に就任すれば意外と現実的に振る舞うのではないかという期待も…

 有泉貞夫『星亨』

先日読んだ松沢裕作『自由民権運動』(岩波新書)の巻末で本書が紹介されており、「運動や政治にかかわって生きる、とは何を意味するのかについて思索をめぐらす際に、ぜひ手に取ってほしい一冊である」(228p)と書かれていたので手に取って読んでみたので…

 板橋拓己『黒いヨーロッパ』

副題は「ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋(アーベントラント)」主義、1925~1965年」。副題を聞いてますます本の内容がわからなくなったという人もいるかもしれません。また、副題からものすごく小さな問題を論じているという印象を受ける人もいるかも…

 マーク・マゾワー『暗黒の大陸』

20世紀(第一次世界大戦の終結時から東欧変革まで)のヨーロッパ史を描いた本ですが、扱われている対象の広さといい、歴史を象徴するエピソードを拾い上げるセンスといい、その分析の冷静さといい、これは素直にすごい本だと思います。 読みながら、アーレン…

 池内恵『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』

『イスラーム国の衝撃』(文春新書)の池内恵の本。新潮選書になりますが、タイトルの頭に【中東大混迷を解く】とあって、著者はブックレットシリーズの1冊としてこの本を位置づけているようです。 目次は以下の通り。 第1章 サイクス=ピコ協定とは何だった…

 エスピン=アンデルセン『平等と効率の福祉革命』

『福祉資本主義の三つの世界』で現代の福祉国家における複数の均衡を鮮やかに示してみせた著者が、女性の社会進出を一種の「革命」と捉えた上で、そこで生じる問題点や、あるべき社会のデザインを語った本。 女性の社会進出を進め、そこから生じる問題をクリ…

 前田亮介『全国政治の始動』

本書は、明治23(1890)年の帝国議会解説によって現出した、日本列島を単位に、選挙に基づく国民の代表が政府と相対して、全国大の観点から地域的利害の調整・統合について議論する内政のアリーナを「全国政治」と名づけた上で、この全国政治の下で進行した…

 五十嵐元道『支配する人道主義』

苦しみの中にいる人を助けたい―。 そのように考え、 行動した人道主義が 支配の構造をつくり出してきた。 これはこの本の帯に書かれている文章。タイトル自体もそうですが、なかなか刺激的で挑戦的なものだと思います。 人道主義というと「良い介入・統治と…

 加藤弘之・梶谷懐編著『二重の罠を超えて進む中国型資本主義』

編著者のおひとりである梶谷懐氏からご恵投いただきました。 タイトルの「二重の罠」とは、中所得国になったあとに経済が停滞してしまう「中所得国の罠」と、市場移行が中途半端な形で停滞している「体制移行の罠」のこと。 サブタイトルは「「曖昧な制度」…

 ダグラス・C・ノース『ダグラス・ノース 制度原論』

ノーベル経済学賞受賞者で、去年の11月に95歳で亡くなったダグラス・C・ノースが2005年に出した本の翻訳。原題は"Understanding the Process of Economic Change"、『経済変化の過程を理解する』になります。 ノースの研究の集大成と言っていい本なのかもし…

 権丈善一『ちょっと気になる社会保障』

2009年に民主党に政権を獲らせた一つの大きな要因が「年金問題」でした。「消えた年金」「年金未加入問題」「無年金者の増加」「年金だけでは暮らせない!」「年金は破綻する!」といった声がマスコミに度々登場し、それが「ミスター年金」こと長妻昭議員の…

 増山幹高『立法と権力分立』

以前に紹介した待鳥聡史『政党システムと政党組織』と同じ東京大学出版会から刊行されている<シリーズ日本の政治>の1冊。 本書は「立法を集合行為のジレンマに対処する権力行為と捉え、民主主義的な権力行為が議会の制度設計によっていかに実現されるのか…

 シーダ・スコッチポル『失われた民主主義』

サブタイトルは「メンバーシップからマネージメントへ」。アメリカ政治学会会長なども務めたシーダ・スコッチポルが、トクヴィルの見出したアメリカの結社が20世紀後半にいかに変質していってったのかということを分析した本。 同時に、同じようなテーマをと…

 上林陽治『非正規公務員』

図書館、保育園、学校など、国民の多くが直接関わることになる公的サービスの分野で、「非正規」の職員が増えています。 そんな「非正規公務員」実態を明らかにするとともに、「非正規公務員」の低待遇や不安定な雇用について、関係する法律や判例から、その…

 G・エスピン‐アンデルセン『アンデルセン、福祉を語る』

ここで問題となるのは、死は民主的ではないということである。通常、所得の高かった恵まれた人々の平均余命は長い。所得の高かった人々は、より長い余生を楽しむことになる。つまり、彼らが我々の年金財源から引き出す金額は、平均よりも多いということであ…

 小林道彦『政党内閣の崩壊と満州事変―1918~1932』

大正期における政党内閣制の確立から五・一五事件による政党内閣の終焉までの政治と軍の関係を丹念に描き出した本。膨大な量の1次史料にあたっており、265ページの本文に100ページ以上の注がつくというバリバリの専門書になりますが、そうした史料の中から立…

 待鳥聡史『政党システムと政党組織』

東京大学出版会から刊行が始まったシリーズ「シリーズ日本の政治」の1冊。 基本的に教科書的な本なのですが、「政党」という重要だけど意外に説明しがたいものについて知りたかったということと、以前読んだ著者の『首相政治の制度分析』がなかなか面白かっ…

 保城広至『歴史から理論を創造する方法』

自分は大学の史学科(日本史学専攻)出身で、歴史好きで歴史を勉強したいと思って大学に入った者なのですが、大学での歴史の勉強は、いくつか面白い授業はあったものの全体的には物足りず、政治学とか社会学とか経済学とか哲学などに興味関心が移って今に至…